彼は元々「自分は嘘をつくのが上手だ」と思っている人でした。
嘘は本当のことを織り交ぜながら話すんだよ、と得意げに話すようなタイプの人間で、確かに勘の鈍い相手、もしくはよっぽど純粋で彼を信じきっている相手なら問題なく嘘をつき通せるだろう、と思います。
しかし、私からしたら大体丸分かり。
「ここは本当だな。」「この辺は嘘っぽい。」と見抜けてしまいます。
彼はごく自然に日常会話のつもりで話しているつもりでしょうが、彼が嘘を織り交ぜるときには、話始める前に、ほんの少し慎重になるのです。
これを見抜くには、彼のことを大好きで一挙一動見逃したくない!という気持ちと、また相反するようですが、はなから彼を信頼していなかった、という気持ちを同時に持っていたから分かったことかもしれません。
おしゃべりが災いする彼
彼の抜かったところは、私と付き合う前に前歴を披露したことにあります。つまり過去付き合っている女性以外と浮気したことがあるか、どのくらいの頻度で、どうして浮気するかを赤裸々に話してしまったことです。
当時の彼はおそらく私と付き合う気はなかったので、そのようなことを話してくれたのだと思いますが、これは彼の盲点です。
『過去に浮気経験がある』プラス『嘘をつくのが上手(と本人は思っている)』。これが重なったら疑わないわけありません。
そもそもそんな男と付き合った私にも非はあるかもしれませんが・・・。
浮気に気づいたのは、彼に何気なく「昨日何してたの?」と聞いたところ、
「カフェに行って一人でコーヒーを飲んだ。」と返答があったところからです。
カフェ、というのは便利な場所です。
彼が行った、と教えてくれたカフェは彼の自宅から遠く、また私も一度連れていってもらったことがあるのですが、一人でコーヒーを飲みに行くほど美味しいコーヒーを出してくれるわけではありません。
それから、そのカフェは前の彼女とよく行くカフェだった、ということも聞いていました。
彼はそれを私に教えたことすら忘れていたかもしれません。
とにかく、それで「一人じゃないでしょ?前の彼女と会ってたの?」と怒った風でもなく何でもない素振りで聞いてみると、少し躊躇いを見せた末に「・・・うん。」と認めました。
その後、彼らに体の関係があったかどうかまでは確認していません。
が、当時の状況を詳しく説明するとややこしいので詳細は省きますが、ないほうがおかしいと思う状況だったのは確かです。
それでも私がその時点で問い詰め彼と別れなかったのは、こちらから聞いたところまでは正直に認めたことと、今現在、彼が自分と一緒にいること、を重視したからです。
前の彼女と会っているというのは正直良い気分ではありませんが、私はどうもそれを見なかったフリのできるタイプのようです。
今彼がここにいて、自分とのデートを楽しみ、体の関係も問題ない、とあればそれでいいと思ったのです。
リードに繋がれた彼
そうした大らかさを持ったことが幸いしたのか、いつの間にか彼は前の彼女との縁はしっかりと切ったようです。
前の彼女がかなりのヤキモチ焼きで重く束縛のキツイ女性だったことも影響しているかもしれません。
「俺は太く短いリードよりも長いリードで繋がれてるほうがいいんだよ。」などとのたまっていました。(全く今思うととんだナルシスト野郎ですよね。)
ですが、結果的に言うと私は彼と別れました。
その一年半後、彼に好意を寄せる会社の同僚とどうやら浮気していたようです。
社員旅行先の北海道。「同僚の男性社員達は夜ススキノへ繰り出したけど俺は一人でバーを探して一人で飲んでたよ。」と報告を受けました。
一人で、ということを繰り返し強調するところも怪しかったですし、そもそも旅先で一人でバーへ出かけるような男性ではないのです。
腕時計に釣られた彼
そしてその半月後、彼の腕には見覚えのない腕時計が。
「何これ?買ったの?」
ともちろん聞きましたが、これは純粋な質問です。
彼は時計を集めるのが好きだったので新しいコレクションに追加したのかな?という程度の疑問でした。
ですが、明らかに彼好みでも私好みでもないデザイン、珍しいな、と思いました。
すると彼はごく自然に「これ、こないだ見つけて衝動買いしちゃったんだ。」と言いました。
一旦は納得しかけた私ですが、ここで女の勘発動。
彼の行動パターンを熟知していた私は彼が一人で買い物に出かける時間を取ったことも不思議でしたし、何より時計のデザインがどうも腑に落ちません。
カッコいいデザインだけど、彼が自分で買うほど気に入る魅力があるようには思えませんでした。
とまぁ、理論的には色々考えましたが、結局は女の勘です。
問い詰めるとゲロった彼
「これ、貰ったんだよね?誰に貰ったの?」そう聞けば、「いや・・・」と濁しました。
もう一度念押しするように「誰にもらったの?会社の子?前の彼女?」と相手を特定して聞けば、やはり嘘を突き通すのは賢明でないと判断したのか、「会社の女の子に・・・。好きだって言われたし、貰えないって断ったけど・・・」となんとも歯切れの悪い返事が返ってきました。
何万もする時計をただ片思いの相手には渡しませんよね?
ちなみにこの時点で私は会社の女の子が怪しいとだいぶ前から睨んでいました。
北海道の件はこの時計の一件であとから確信しましたが、それ以前から彼の仕事の話を聞いていると
「その子は彼のこと好きだろうし、彼もそれを分かってるんだろうな。」とあたりをつけていたのです。(考えすぎならばそれに越したことはなかったのですが。)
物に釣られたのか意思が弱いのか、ともかく彼に呆れてしまいましたが、ここでも私はそれ以上問い詰めませんでした。
問い詰めればきっと彼は正直に話すでしょうが、彼の口から「体の関係があった」「口説いた」「迫られて断れなかった」だとかそんな言葉を聞けばこちらの女のプライドがずたずたになりますから。
ただ一言「許せない」とだけ言ってその日は家に帰り、数日後、電話で別れを切り出しました。
彼は嗚咽を漏らすほど泣いていましたが、別れてよかったと思っています。